三十三間堂裏 ゲストハウス「志庵」

京都を代表する観光名所の三十三間堂。建物の正式名称は「蓮華王院本堂」と呼ぶ。
和装姿の新成人たちがここで行う弓の引き初めは、その晴れやかな姿から京都の新春にふさわしい風物詩となっている。

その三十三間堂から徒歩1分ほどの場所にある築100年の町家を今回改装する機会に恵まれた。
この建物の売りは何と言っても”岩風呂”である。
オーナーから、「岩風呂を造りたい」と聞いた時は、ゲストハウスとしての機能、リビングや寝室の確保は可能だろうか。
加えて、京都市のバリアフリー条例に基づくエレベーターの設置が頭を悩ませる。限られた空間に、どこまで夢を宿すことができるのか。

構想を重ね、浴室は奥まった場所に腰掛けのスペースを設け、そこから坪庭を望む設計にした。湯に浸かると、目には緑、耳には静寂。
視覚と心が癒される。岩風呂の素材は、最終的に檜と石を組み合わせることに決めた。
檜の芳香が漂い、石の重厚さと調和した空間は、旅人の疲れをやさしく包み込む。

1階は回遊式の間取りとした。どこからでも自然に辿れる動線。廊下に面した寝室は、寝具だけを置いたミニマムな設えだ。
その窓からは坪庭が目の前に広がり、控えめながら贅沢な空間を味わうことができる。
エレベーターの設置は、正攻法でいけば避けられない。しかし費用も、スペースも、この規模にはそぐわない。
私は床の高さを抑え、緩やかなスロープを設けることで、すべての人が無理なく室内へ入れるようにした。
段差をなくすことで、車椅子を使う人も、子どもを連れた人も、誰もが心地よく過ごせる場所になる。

2階の天井を落とすと、姿を現したのは古い梁——ゴロンボである。
その無骨な木組みが、京都の記憶を静かに語っていた。窓のレトロガラスから差し込む光は、かつてここに暮らした人々の営みを今に伝える。
百年の時を超えて、木の温もりに包まれた町家は生まれ変わった。旅人を癒し、安らぎを与える宿として。

これからも幾度となく訪れる人々の記憶に溶け込み、静かに、そして温かく寄り添い続けるだろう。
所在地
京都市東山区
竣工年
2025年
種別
改装
用途
ゲストハウス
構造
木造2階建
延床面積
58.04㎡(17.5坪)

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